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マーケティング対談 「データ・デジタルテクノロジーで再発明する日本HPの最先端B2Bマーケティングに迫る」(後編)株式会社日本HP 堀井篤史様

マーケティング対談 「データ・デジタルテクノロジーで再発明する日本HPの最先端B2Bマーケティングに迫る」(後編)株式会社日本HP 堀井篤史様

2020.01.17Marketing

■Chapter4: 目指すべきマーケティングに向けた課題認識

桐生_ここからは「ABM」を使って日本HPの法人向けビジネスのマーケティングをさらに進化させていく方向性についてディスカッションさせてください。

 コンセプトレベルでの「ABM」は、2003年頃にはアメリカで誕生していました。実運用ベースで導入を行う企業が出始め、成功事例が生まれてきたのはここ数年のことです。この背景にはアメリカを中心に、ABMに特化した優れたデジタル・テクノロジーベンダーが誕生したことがあるとも言われています。とりわけ、データにまつわるデジタルテクノロジーの急速な発展によってABMで成果を出すことが可能になってきました。
ABMは、既存顧客、新規顧客どちらかに限定したマーケティング、というわけでもありません。

既存顧客にも未開拓の商機がたくさん眠っている可能性があり、それを見出すために有効なアプローチでもあります。例えば、営業マンは日々向き合っているクライアントとのコミュニケーションから商機を生み出していくわけですが、ABMは最初からアカウント全体に視野を広げて様々なニーズを仮説として立てたうえで、トータルソリューションをぶつけていくために誰にコンタクトすれば良いのかを定義します。すると、潜在的な商機を掴むことができる可能性が高まります。
とはいえ、そうしたABMを実践するには課題もあります。例えば、「既存顧客は名刺も持っているしニーズもヒアリングで捉えることができるけれど、新規顧客はコンタクト情報もなくニーズを聞きようもないのでどうすれば良いのか」といった場合です。どうやって精度の高いターゲティングを可能にするか、が、ABM成功に向けた鍵になります。

堀井_「事業所の新設で新しくワークステーションのニーズが生まれそうだ」とか「人員増強を計画しているから業務用PCの追加ニーズがありそうだ」といった話であれば施策が組み立てやすそうです。一方、より本質的な、「テクノロジーを活用して新しいイノベーションを創り出したい」とか、「環境にも人にも優しい働き方をデジタルテクノロジーを活用して実現したい」といったことを模索している人や企業をターゲティングするのは難しく、どうやって実現していくかが課題だと思っています。
 もし、企業名レベルでターゲットアカウントを定められたとしてもコンタクトポイントがない場合、これを生み出していくために必要な施策基盤が整っていないことも課題です。デマンドセンターを構築、整備しきれていない状態です。

 

■Chapter5:ABMを機能させるために有効なプロセスと最新のデジタルテクノロジー

桐生_まず、ABMの基盤となるアカウントデータベースを整備しなければなりませんよね(*9)。
 しかし、いきなり完璧なデータベースを作ろうと思っても不可能です。フェーズに応じて段階的に整備するのが良いだろうと思います。日本HPの規模ともなれば、膨大な量のアカウントデータをお持ちのはずです。社内に蓄積されたアカウントデータを段階的に統合、リッチ化して、「使える」データベースをつくる必要があります。

堀井_散らばったデータの統合には、かなりの困難が予想されますね。日本HPでは複数の事業部門があり、お客様ニーズを広くカバーするために複雑な販売のチャネル網を敷いています。法人向けには、大きく分けまして直営業と販売代理店経由の2つのチャネルがあります。これを補完する役割にマーケティングやビジネス開発があります。ダイレクトチャネルとしてEC、コールセンターも構えています。このように複雑なチャネル構成であるため、アカウントのデータを統合し活用するには、高度な仕組みの整備、活用可能な人材育成をしないと難しいだろうと思っています。ですので、まずは小さく立ち上げて成功事例を作っていくこと、そして、最初からしっかりと「拡張性」を意識しておくことが大切だと思っています。

桐生_データ基盤の整備をサポートするテクノロジーも徐々に生まれつつあります。また、自社のデータだけで不足があれば補完してくれるABM系データプロバイダーも登場しています。こうしたデータを取り込みながら、まずは部門で小さい成功事例を生み出すこと。そして将来、部門をまたいで、人やスキルに依存せずに活用できる拡張性のあるデータ基盤を整備していくのが良いでしょう。

堀井_そうですね。まずは自社、外部の利用可能なデータを整理して試験的な顧客アプローチを繰り返しながらノウハウを貯めていくやり方でやってみたいと思います。

桐生_例えば、「営業部門が今までアプローチしたかったけれどアプローチが困難だった層」にアプローチできる仕組みを創り出すことにチャレンジをするとして、ターゲットパーソンとのコンタクトポイントを創造するための施策を検討するのはどうでしょうか。
 アウトバウンドについては、米国ならビジネスパーソンの個人データが集まるプラットフォームにLinkedInがあるため、ABMの施策を実施しやすい環境があるとも言われますが、「LinkedIn頼み」ではないターゲットパーソンを定めるエンジンも誕生してきています。例えばDemandBaseというデータプロバイダーは「リバースIPソリューション」とAIによる解析を駆使してアプローチしたい人にターゲティングするサービスを行っています。「LinkedInレベルの高精度なアプローチを、Google ADレベルのスケールで行うことが可能」とのことです。
 また、例えば自社のホームページやキャンペーンサイトを訪れたリードがABM上のターゲットに該当しているかどうかをリアルタイムかつ自動で判定して即座に次のマーケティングアクションを実行に移すことを可能にするLattice Enginesがあります。

堀井_いろいろと出てきていますよね・・・。できあいのシステムパッケージを丸ごと取り入れて、フルスコープでABMのモデルに則した業務とシステムにガラッと変えるのは現実的ではないので、いろいろなテクノロジーを活用しつつ、スモールスタートでクイックヒットを積み重ねて、他社が容易に模倣できないようなノウハウを織り込んだ仕組みを作っていくのが良さそうですね。

桐生_ 仰る通りですね。そうして、いろんなテクノロジーを試しながら、ターゲットアカウントに対する「今までより一歩前に進んだアプローチ」を徐々に進めていかれるのが良いかと思います。
 具体的にはDMPを活用して、企業IPや位置情報などを掛け合わせてターゲット企業の絞り込みを行い、デジタル広告と最適なコンテンツを組み合わせてターゲットアカウントとの接点を少しずつ特定し、facebookのカスタムオーディエンス機能を使ってそれなりに精度の高いリードをターゲットにしてナーチャリングする手法にチャレンジしてみるのは有効ではないでしょうか。

堀井_できることからスタートし、成果を出して社内を動かしていくというのは、成功への道筋として分かりやすいですね。弊社は優秀な営業マンを大勢抱えています。彼らの力も借りながら日本HPならではのABMの成功モデルを創り出していけるといいなと感じました。やはり、営業の重要性は大きいと思っています。「何かあったときに、ちゃんと来てくれて、しっかりと対応してくれる営業がいるかどうか」ということは、選ばれる企業になれるかどうかの重要なポイントだと思っています。ABMによって、そうした、営業の本来的価値を、さらに高めていけたらよいなと思っています。


桐生_素晴らしいですね。営業に協力をしてもらえるモデルにできればより効果的にアカウントへの価値提供を最大化できる可能性がありますからね。現代においては、デジタルテクノロジーで実に合理的なABMを実現することが可能になっています。また、手元に完璧なデータがなければ何も実行できないものでもありません。さまざまな外部のテクノロジーやデータをうまく活用して少しづつ、オリジナルのABMの仕組みを作り上げていくことができればそれが一番です。
 デジタルテクノロジーだけではどうしても入手できないデータ、アプローチできないコンタクト先もあります。デジタルで取れない、取りにくいデータは、人力で取りに行ってもいいわけです。そして顧客への情報提供、コミュニケーションをすべてデジタルで行うことが効果的とも限りません。局面においてはアナログの方が早くて確実、効果的(丁寧なアプローチが可能という意味で)ということもあります。

堀井_必ずしもデジタルが全てではない、というのは、本当にその通りですね。

 

■Chapter6:あるべきABMの取り組み方

桐生_堀井さんのおっしゃる通り、「自分達なりのABM」を試行錯誤しながら作り上げていくことが重要だと思います。弊社DATA MIXOLOGYは、デジタルテクノロジー&データサイエンスのプロフェッショナルですが、データを用いた戦略策定の助言をさせていただく機会も多いです。戦略は、精度の高い仮説があってこそ成功の確率が高まります。そうした、仮説づくりのお手伝いも、させていただいております。また、そうした戦略に基づいて組み立てる具体のマーケティング戦術や施策、それらの実行に必要なシステムや体制の設計についても、アドバイスさせて頂いたりもしています。

堀井_素晴らしいですね。HPは、今までにない新しい価値を生み出していくことに企業としての出発点があります。過去のデータからそれらしい傾向を導いて、それに引っ張られてしまうような効率化のためのデータ活用では、未来を創造することは難しいと思っています。そういった意味で、インサイトの発見、精度の高い仮説を重視されているDATA MIXOLOGY様は、頼もしいパートナー様だと思います。

桐生_HPと言えば「THE OLDEST STARTUP(最も歴史のあるスタートアップ企業)」と称する人もいるくらい、誰もが知る「元祖ベンチャー」です。幾多ものイノベーションを生み出し、時代の最先端を切り拓いてこられた企業だと思います。ぜひ、マーケティングのありかたについても、「Keep reinventing」の精神で、アップデートしていっていただくことを期待しています!

堀井_いろいろと挑戦していきたいと思います! 今後とも、よろしくお願いします!

 


Profile
堀井 篤史 ほりい あつし
所属:株式会社日本HP パーソナルシステムズ事業本部 パーソナルシステムズ・マーケティング部

慶応義塾大学卒業。多摩大学大学院修了。

プログラマーとしてキャリアをスタートし、電通、Digitalforest(現NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューション)、L‘Orealなどを経て現職。eコマースサイトやSocial media公式アカウントの運営、動画、アフィリエイトなどのオンライン施策に加え、イベント、セミナー、店頭などオフライン領域の業務にも従事。HPのゲーミングPCを約2年で国内シェアNo.1に成長させる。現在はHPの法人向けPCのマーケティングを担当。

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